まどろむ街、東京。

東京で失敗しました。予約した時点で選んだ宿が間違いだったのです。東京での野宿が決定した瞬間でした。その時の場所は東京金町。まもなく日が変わろうかという深夜。なんとか終電を乗り継げば、東京駅付近にまでは戻って来れそうです。

ここで、さらなる失敗。東京は眠るのです。

私のこれまでの東京は、どこに行っても新宿歌舞伎町、渋谷のスクランブル。夜通し人が歩き、店は営業をし、喫茶店でも代わりのホテルでも、一晩くらいなら何不自由なく過ごせるものだとばかり考えていました。

しかし、現実は違うのです。特に東京駅周辺は、昼間にあれだけ溢れていた人々はどこかしらに消え失せ、車はタクシー数台がまばら、店どころかコンビニすらも営業していません。ここ周辺のコンビニの多くはビルのテナントであり、深夜は当然ビルごと閉鎖されるからです。さらには、東京駅構内からも締め出されてしまう始末です。

誰もいない東京駅で響くいつもより大きいシャッターの音と、独り歩く自分の足音は、ここに僕だけしかいないことを、ただ知らしめてくるのです。

1時過ぎ、東京駅、完全〆切。八重洲から丸の内までの通り抜けすらできなくなります。

1時半、東京駅入り口付近の掃除が始まります。タイルの目地を流れる水を目で追いながら時間が経つのを待ちます。

2時、隣で寝ていた男性がおもむろに起き上がり、夜の闇の中に消えていきます。

2時半、掃除が終わってしまいました。目で追う水の流れも無くなってしまいます。

こういう時、人の感覚は針のように研ぎ澄まされます。

静まり返っていく東京。遠くのほうでは一晩中工事の音が僅かに聞こえ、清掃員が何やら相談している内容すらも聞こえます。

3時、早起き組がちらほら見え始めます。足取り軽く爽やかなのが早起き組です。目の光が失われ、諦めたようにベンチに座り込んでいるのが野宿組です。

4時、東京駅構内が開放された後は、少しずつ昼間の騒がしい、いつも通りの景色へと戻っていきます。

眠らない町「東京」も、まどろむくらいの時間があり、そこを吹き抜ける夏の風は、こんなにも涼しくて、爽やかで、なんだか寂しげです。これまで持っていた東京のイメージ、それはただひとつの側面に過ぎず、本当はもっといろんな表情がありました。

僕はその瞬間、東京の知らなかった顔を知ることに、成功したのです。

知り合いの人(写真を撮っています。東京は初心者です。)

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